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東京高等裁判所 昭和24年(新を)2447号 判決 1950年12月25日

被告人

有馬豊次郎

主文

本件控訴は之を棄却する。

理由

弁護人樫田忠美の控訴趣意第一点(イ)について。

酒税法第六十二条は、さきに昭和二十年二月十四日法律第十六号によつて一旦削除せられたこと所論のとおりであるが、其の後昭和二十四年四月三十日法律第四十三号による同法改正の際、再び制定せられ、其の第一項第四号の所定事項は従前の同法第六十四条第一項第二号に相当し、酒類の無免許販売業者に対する罰則であつて、昭和二十四年五月一日から施行されたのであるから、原審において原判決を為した同年同月十六日に右酒税法第六十二条を以て裁判時法として適用したるは至当であつて、此の点に付き原判決には所論のような違法はない。論旨は理由ない。

同点(ロ)及び(ハ)について。

(イ)  本件ウイスキー販売行為は、之を無免許のまま為された方面から考察すると、所謂営業犯として、之を形成する取引の回数如何に拘らず其の全体を包括的に観て単一の犯罪として処分すべきであり、而して之を其の都度、都度の取引が、統制額を超過する価格を以て為された方面から考察するときは、其の取引の度数若くは価格の如何に拘らず、一個の物価統制令違反罪に触れながら而も右無免許販売行為とは孰れも表裏一体を為して不可分の関係にある。故に結局本件の無免許にして且つ統制額超過の販売行為は、総体として一所為となり、唯其の無免許なる点と超過価格なる点とにおいて各関係法規を異にするに過ぎないものである。而して其の超過価格の多少は、其の関係法規の数量には影響を来すことあつても、其の本質に変化を与えるものでないから、物価庁告示の数は若干あつても、其の根底において物価統制令第四条、第三条、第三十三条が一貫して適用されるものと解するを相当とする。従つて原判決において本件販売行為を以て無免許に係る点と超過価格に係る点との数罪名に触れる一所為なりとして、刑法第五十四条第一項前段、第十条を適用したのは正当であり、所論の如く超過価格の取引を一回毎に各独立にして而も無免許販売行為とも分離して、結局二十四個(一個の無免許営業と二十三個の物価統制令違反行為の)併合罪なりと解するは妥当ではない。従つて、亦原判決において本件被告人の所為に対し、併合罪の規定を適用しなかつたのは当然であつて、原判決には何ら擬律錯誤の違法はない。仮りに所論の如く併合罪の規定を適用すべきものとしてもかゝる主張は、被告人の為の控訴の理由としては不適法であるから結局論旨は理由ない。

同点(ニ)について。

(ロ)  原判決が本件の所為を以て前記の如く改正前の酒税法第六十四条第一項第二号と物価統制令第三十三条とに触れる一個の行為として之が擬律の為、右双方の該当法条の所定刑の軽重を比較するに当り、単に刑法第十条のみを掲げて刑法施行法第三条の適用を示さないことは所論のとおりであるが、本件の具体的事実としては、右酒税法第六十四条と物価統制令第三十三条との各所定刑をみるに、懲役刑を専有する点においても、又罰金が特定の場合十万円を超え得る点においても、物価統制令第三十三条は毎に酒税法第六十四条より重いのであるから、所論の如く特に刑法施行法第三条を適用して初めから懲役及び罰金の両主刑を併科するや、又は其のうちの一個のみを科するやを定めて後に、前記両法条の所定刑を比較すると否とは、実際上の結果において同一に帰着し、判決に影響を及ぼすべき事柄ではない。而して原判決は物価統制令第三十六条を適用して、懲役及び罰金の両刑を併科する理由としては特に犯罪の情状に鑑みて、此の措置に出づるものなる旨説示して居るのであるから、原判決には所論のような違法はない。論旨は理由がない。

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